2012年5月16日水曜日

感想 「KATAGAMI Style」いってきました


三菱一号館美術館で開催中の「KATAGAMI Style」へいってきました。
展示品の数が約400点とかなりのボリュームで、全部見終わる頃には疲れ果ててすごーくお腹がすいたという思い出の残る展覧会でした。


展覧会のテーマは、日本の型紙のデザインが西洋芸術に与えた影響について。
型紙そのものを見るのも初めてのことでした。

着物や文様染に使われた伝統的な日本の型紙の数々と、特に19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパの工芸品を中心に、型紙のデザインがどのように取り込まれているかを見る事ができる展覧会でした。
また、サブタイトルには「Paper Stencils and Japonisme」とあり、これまでジャポニスムと言えば特に浮世絵などに焦点が当てられ、印象派やアール・ヌーボーなどの美術運動にはそれらの彩色や平面的構図の影響があると多く言われてきましたが、今回は「型紙」を通してジャポニスムを探るという初めての試みになっているということでした。

与えた影響、と一括りにいってもある特定のジャンルや場所に限られているわけではないので、結果的に展覧会でのカバーする範囲がかなり広くなっていて、世紀末ヨーロッパの工芸品展のような感じでもありました。

イギリスのアーツ・アンド・クラフツ運動、ベルギー、フランスのアール・ヌーボー、ドイツのユーゲントシュティール、ウィーンの分離派、さらには現代のプロダクトデザインまで。型紙スタイルは様々なところに受け継がれているということで、ジャンルも家具やガラスや壁紙など様々なものたちが・・・ それも国内外の約70カ所の美術館・博物館から集められたそうで、3階に分かれたあの建物の中にこんなに沢山運ぶのは、さぞかし大変だったろうなあと思うほど分量があります。そして大量のモノを見ることに力を使うとお腹がすくということが、今回をもってはっきりと分かりました。



左:建築家ヴィクトール・オルタによるタッセル邸(1893)、最初のアール・ヌーボー建築といわれる。
中:美術商サミュエル・ビングの店「Maison de l'Art Nouveau」(1896)、アール・ヌーボー(新しい芸術)の呼び名はこの店の名前から一般化した。
右:オーブリー・ビアズリーによる『サロメ』の挿絵(1894)、アール・ヌーボーを代表するイギリス人画家。

そもそもあのうねうねとした装飾的なアール・ヌーボー形式は、単品でみると綺麗さを感じることがあっても、流行として存在している時代って、ちょっと怖くもあり、気持ち悪いなあと思ってしまいます。

今回見た型紙デザインも、見事うねうねに取り込まれ独特の世界観に溶け込んでいっています。本来日本人が好んだポイントとは少し違った部分で、型紙デザインは時代の潮流に発見され新しい表現の一種として各地のデザインに落とし込まれていったようです。

もともと日本美術でも曲線的な表現が多いといっても、そこにはやっぱり日本的な余白や構図や風流な世界観など様々な要因が重なって独自の涼しさ、カッコよさがあると思うのですが、そういうところがまんま伝わったわけではないということも再認識できました。

例えば鳥のモチーフひとつとっても、型紙に見られるものと各地の表現では、顔が外国風になっていたりして、日本的な感覚から見るとやっぱりコテコテして見えます。
最もあたりまえなことですが、型紙というジャポニスムも、やっぱり土地土地で解釈されて利用され、他の要素と交わり新しい芸術の形を生むことになった一つのソースということでしかないと改めて思いました。

ジャポニスムをはじめクールジャパンとか、世界にいかに日本的なものが賞賛されたり受け入れられているかということが多く語られたりしますが、解釈はバラバラで多様なので、評価を外部に委ねすぎたり、過剰に反応するものでもないのだと思います。

でもこの時代、明治期に入った日本はヨーロッパへの視察団などを送る中で、芸術面ではそのアール・ヌーボーに大きな影響を受けた人たちが、日本に戻って自分たちの作るものに早速取り込んだりという文化のループがあったりして妙な感じでもあります。

アール・ヌーボーについて、この3つの本を読んでみました。


『アール・ヌーボーの世界』海野 弘

初版が1968年だそうですが、この頃50年代に世界各地でアール・ヌーボーに関連する展覧会が開かれ、欧米でも60年代に再評価が始まったばかりという時代で、それほど研究者もいない状況でまとめられた本だそうです。

『世紀末芸術 新装版』高階秀爾

こちらも初版が1963年で同時代の本です。こちらは特にアール・ヌーボーと題されていないですが、この時代の芸術の背景や特質についてなので、自動的にカバーされています。どちらの本でも、特定の芸術ジャンルや様式を掘り下げるというより、世紀末を覆い、新しい芸術を生み出した時代の全体や精神性を捉える方に重点が置かれています。そしてその精神性が関わるがゆえにというか、文章もすっきり論理的ではなく若干読みづらかったです。文学からの影響、心理・哲学、過去の歴史への回帰的趣味などあらゆる要素が世紀末芸術に繋がっているため、知識のなさからピンとこない部分があり読みにくかったものとも思われます。


『ジャポニスム―幻想の日本』馬渕明子

こちらは比較的最近の1997年に出た本でした。ジャポニスムの影響を過大評価しすぎず、冷静な視点からの、モネ、ゴッホ、クリムト、北斎などについての研究がまとめられた本です。その視点の部分が気になり手にとってみたので、全体を通しては読めていません。ヨーロッパが日本的なものから何を選び何を選ばなかったのか、画家が取り入れた表現方法に込めた意図は何なのか、作品を追いながらジャポニスムと言われる本当の部分を考えることのできる本なのかなと思います。

そうするとジャポニスムという表現が、日本人にとってはおおごとのような気にさせるのかもと思ったり。。
つくられたジャポニスムのイメージを通して自国の文化を解釈している面もあったり。なんとなく名前の紛らわしさというか不都合さを感じる、、なんせ国名が入ってるしなあ。でも違う名前だったとしても同じなのかなあ。


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