2011年12月3日土曜日

感想 「ザ・ベスト・オブ・山種コレクション」いってきました


一生のうちに、こんな絵を描けるとは
それだけでなんと幸せものなんだ

心躍るような素晴らしい絵に出会うとそう思う。

絵を描く道を自ら選んで生きる人にとって、表現したいものを表せるだけのテクニック、技術を身につけるのは勿論。その技を磨くだけでも相当に大変な道。。。だけど、自分の心は今どこにあり、何を理想とし、描き出したい本質は何なのか、という事を探し求めることのほうがもっと難しい。さらにその確信をいかに体現できるかとなると、それはもう考えるだけでも悩み、苦しみが取り巻く険しい道のり。 気が遠くなる !

自分にとってたった一枚でも理想の絵が描ければ、その画家は救われるのかもしれない。
青木繁の言葉を思い出す。

「私は今こういう考えを持っています。つまり人間というものは、紅と見えたものを紅と描き、白と見えたものを白と描くために色々と青い色もつけ黄色い色もつけてみるもので、その本然のうるわしい絶頂に辿り着かんがために、種々の境遇を通って進むものではないかと思うのです。そして一生に一枚でも立派な絵が描ければいいと思っています。」

でもきっと真理を追い求める人には、その飽くなき探究心によって、辿り着いたと思えばまた新しい道が現れるのかもしれない。

青木繁の人生史を読んだときに、美術にも心・技・体のバランスが必要なんだろうなと思った。初期の絵に潜んでいた破壊的な美のパワーも、病に倒れるまでのその不遇な人生を知ると、心身ともにその絶頂に辿り着けるまでのエネルギーを保ち続けられなかったんだなと残念だった。

そんな孤独で険しいイバラの道を通り抜けてきた作品を、山種美術館の「ザ・ベスト・オブ山種コレクション」でもたくさん見てきました。前から楽しみにしていた山下裕二先生の講演会もあわせて聴いてきました。



「ザ・ベスト・オブ」というだけの作品が並ぶ、創立45周年となる山種美術館の誇るコレクションの展覧会。前期は「江戸絵画と浮世絵」、「近代日本画」という構成。日本画はもちろんのこと、琳派や江戸の絵画、近代の洋画まで、創立者の山崎種二氏の時代から集められたコレクションは、美術界や古美術の業界で使われる「蔵が深い」という表現が、その充実ぶりを評するのに適していると山下先生は言う。

展覧会のキャッチフレーズである「教科書で、切手で見た名画、一挙公開!」というような有名作品に肩を並べて、一般の知名度としてはまだ低い知られざる名品をあわせて見せてくれるという試みがカッコいい。パンフレットの2作品は、まさにそのコンセプトを象徴とした構図になっているということ。



右は、美術関係者によるアンケートで山種コレクションの中からNO.1となった速水御舟の「炎舞」。左は近年再評価が高まっているという松岡映丘の作品から「春光春衣」。

今回初めて実際に見た松岡映丘の作品は、本当にこんな絵が一生に描けるなら幸せだろうなと、感じた驚きの作品だった。「春光春衣」の華やかさよりも、もう1点の「山科の宿」という絵巻型の作品からの一場面に衝撃。この心を動かされるドキドキを感じたくて、いろんな絵を見に行ってるんだなと実感する。突然の雨が訪れた空気、色づいた葉っぱが風に吹かれる様子、人物、着物、細部の上品な線、淡い色の重なり・・・どこからどこをとっても心を捉えて離さない素晴らしさ。

この時期ちょうど近所の桜の木が同じ色をしていたから、木の葉を見るたびしばらくこの絵のことを思い出すほど印象的な雰囲気だった。

松岡映丘「山科の宿」雨宿り

絵は生ものだということを、後で図録を見ながらひしひしと感じる。色も大きさも質感も印象も、プリントされたものと実物ではまるで別のもの。生のものを見ていないものについては、全く何も分かっていないに等しい。ましてや、画家が命をかけて描き込んだものが、印刷物に同じようにあらわれるわけもない。
先に本や資料で見ていてよく知っている気になっているものも、実物を見て、あれ?っと思うこともあれば、目にも留めてなかった作品が実際は思いもよらず魅力を放っていたりする。

会期中には「山科の宿」から別の場面が展示されるということと、次のテーマは「戦前から戦後へ」なので、どんな作品が見られるか期待がいっぱい。年明けに始まる後期にも行ってみよう。


0 件のコメント:

コメントを投稿