国立新美術館で開催中のセザンヌ展に行ってきました。この前行ったポロック展のように、これほど一挙にセザンヌの作品も見られることは無いと思うので貴重な経験であったのですが、、、、
いつも国立新美術館に訪れると感じる違和感。
そもそも今なぜ「セザンヌ展」なのか分からない違和感。今年は開館5周年ということでその企画の一環。それでもよく分からない。
美術館として何かしっくりこない妙な感覚。
それが何なのか分からないままにしてきましたが、これを機にはっきりさせることにしました。だいたい美術館をよく利用するものとしては、もう少し美術館そのものに対しての基本知識を持っておこうと思い調べてみました。
その謎は意外とすぐに解けて、国立新美術館の英語名称がポイントでした。
THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO
ナショナルアートセンター。美術館でない。
この建物の構想は、もともと美術団体からの要請により始まる。
それまで日展などの公募展は東京都美術館で行われていたが、面積の狭さの問題があり、もっと充実した作品発表を行うためのスペースをと何度と国に求めていたそうである。それが本格的に計画されることになったのが1995年頃。当初は「ナショナル・ギャラリー」の仮称で計画が進められていた。ワシントンやロンドンのナショナル・ギャラリーを意識しての名称か、施設の役割としても“芸術文化の育成と国際的な情報発信の拠点”として期待をかけられ、美術団体の代表や評論家らを中心に調査が始まっている。
詳しい経緯はこちらを見ました。
ナショナルギャラリー(仮称)とは何か? 美術ジャーナリスト 藤田一人
さらに予算を押さえるために収蔵品を一切持たず、費用のかかる展覧会をしない方針に決まっていった中で、ナショナル・ギャラリーという名称がふさわしくないという批判もあり、作品を所蔵・保存するという通常のミュージアムでも無いので結局英語名をアートセンターとし、しかし美術団体からは「美術館」であることの必要を求められ「国立新美術館」と決定されたということでした。
建設費は380億円と言われ、国内最大級の14,000㎡の展示面積をもつ国立新美術館は、つまり公募展と企画展のための巨大な貸しスペースだったのでありました。
もしやこれがうわさのハコモノ行政というやつ?
ちょっと前に「マンガの殿堂」 とか言われていたものを思い出しました。
新聞社と共催で集客を大きく見込める企画展が多いわけも分かり、また訪れた際に見かける公募展が確かにあるなと思い、何をモットーとしているか分からず目的が見えないところに違和感の元もあったのかと思いました。
国立新美術館のサイトに掲載されている事業内容。
1. 展覧会事業 「さまざまな美術表現を紹介し、新たな視点を提起する美術館」
2. 情報収集・提供事業 「人と情報をつなぎ、文化遺産としての資料を収集・公開する美術館」
3. 教育普及事業 「参加し交流し創造する美術館」
もはや批判とかではなく、立地もスペースにおいてももったいない感じが凄いので、アートセンターならアートセンターとしてこれから何かを主張していってほしいという希望です。なんというか単なる大型映画館の気分にもなり、アートを扱っているからこそできる提案や、バリバリ感を演出してほしいなあと思いました。公募展の会場も入りたくなるような何かがあれば。。。
2番目の情報収集の点については、実は日本で一番展覧会カタログを所蔵しているということ。この前はじめてそれらが閲覧できるライブラリーにも行ってみたので、これからもっと利用してみたいと思います。
そこでもう少し美術館について知ってみたかったので、以下の本を読んでみました。
『美術館商売―美術なんて…と思う前に』 安村敏信
サイトを見ているといつも心引かれる展示があるなと思い、しかし遠くて行った事の無い板橋区立美術館の館長である安村敏信さんの本でした。
日本では他の国と比較しても公立の美術館の割合がかなり多く、行政が関わっている分コレクションの方針や予算面、見せ方など様々な点において長期的展望が無かったり、建物先行になったりと問題を抱えているようですが、この本に書かれている板橋区立美術館はどうしているかの話はとても面白かったです。もっと大勢の人にどう楽しく見てもらえるかという基本的な方針があるからこそ、この本についても興味のない人でも分かりやすく読めるよう変に難しく書かれていない良い本でした。小さい美術館だからこそ出来る実験的な視点を持った展示や、なぜ/今/この/作品を見せるのかの問題、意味のあるコレクションにするには、などの話は大きな美術シーンにも当てはめて考えることもできるし、美術館入門として分かりやすい内容です。
『美術館の可能性』 並木誠士, 中川理
こちらは少し専門書っぽい雰囲気でしたが、わりと読みやすい本でした。学芸員経験を持つ並木誠士さんという方による美術館についての現状や制度に関する話と、建築史が専門の中川理さんという方による建築表現としての美術館、地域の「まちづくり」という視点から見た美術館の話という二つの方向から書かれた本です。
常設展より企画展が美術館のメインイメージになっている日本では、歴史を遡ってみても、そもそも公立の美術館は博覧会的に見せるところから始まっていて、作品の収集や保存ありきの発想が重要でなかったことが分かります。さらに現在の公立美術館の運営の課題となっているのが、2003年からの指定管理者制度というもの。施設の運営・管理を一定期間ごとに法人・その他団体に任せるという制度。それから国立新美術館含め5つの国立美術館を運営している独立行政法人の体制についての話。
そういえば事業仕分けというのがあったなと思ったら、国立美術館の仕分け時の議事録みたいなのもWEB上で見れました。買いたいものが買えないというお金に対する訴えの話だけのようでしたが。
行政刷新会議ワーキンググループ 「事業仕分け」 WG-A pdf資料
『大型美術館はどこへ向かうのか?』 森美術館編
これは2007年に森美術館で行った公開シンポジウムの内容をまとめた本で、ニューヨークMOMA、ポンピドゥーセンター、テートモダンのそれぞれの館長の講演録や美術専門家へのインタビューがおさめられた内容でした。
3つの大型美術館ともに分館の建設、敷地拡大など美術館の拡張を進めていることに対してどういう目的や背景があるのかという話が重点的にありました。
ほかに印象的だったのは、MOMAの館長の話にあった観客の開拓の発想でした。美術館は見せたいアートと共に進化しなければいけない、そのために新しいものや冒険的な動向を理解し美術館の活動に満足してもらえるよう観客の教育することが課題。かつての人を選ぶ美術館から、よりオープンな美術館へ。美術館の経験に期待を持たれ、信頼されているからこそ、若く多様な観客がMOMAを訪れてくれる。というような話でした。
3つの本を読んでみましたが、美術館の形が多様なので何が良くて悪い、こう在らねばみたいな共通のものは無いと思いました。日本では公的な美術館が多いからこそ地方でも美術作品に触れる機会を享受できるといういい面があるなら、それを活かした日本なりの美術館のあり方があるんだろうし。ただ公的である反面、それは美術館だけじゃなくどこでもよくあることだと思うのですが、責任者不在的なことによる誰も望まない指針をいかに少なくするかみたいな事も何だか大変そうで。。
しかし公共の館好きとしてひとまず最低限は美術館について知れたと思うので、大変勉強になりました。
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