2012年2月17日金曜日

感想 「今和次郎 採集講義」展 いってきました

少し前に、パナソニック汐留ミュージアムで開催中の「今和次郎 採集講義展」に行ってきました。

今和次郎・・   いまわ じろう? 
と、名前も分からないくらいで出掛けたものの、思いがけず楽しい展覧会でした。名前も思いがけず「こん・わじろう」さん。


パンフレット、そして図録。
主に写真やスケッチ、ドローイングが展示物だったので、普通の書籍サイズで十分に収まってます。解説もしっかりあって、今さんの不思議なスケッチをただただ眺めたりもしやすく、この図録は気に入っています。

「「考現学」の創始者にして型破りな画家・建築家・デザイナーによる大正・昭和の日本一切しらべ!」 

と、帯には。「考現学」というのは、「考古学」に対して作られた言葉で、字から察する通り、現代のあらゆるものをとにかくひたすら観察し記録し、分析するというものであるらしい。

〜学とか記録というと堅い感じがあるけれど、今さんの場合、絵で記録を残していたり、観察対象が一風面白かったりするので、アカデミックさよりも、実験的・前衛的な芸術活動のようにもとれる。図録にコラムも寄せている藤森照信さん、赤瀬川源平さんらによる路上観察学やトマソンなどは、考現学に再注目した人々でもありその影響が大きいということで、なんとも納得できる。

徹底した観察ぶりと、つっこみどころも兼ね備えた記録資料を見ながら、展示室の中では思わず笑ってしまいそうになるので、誰かと一緒に行くと楽しかったかなと少し残念。

終始絵の面白さに気をとられてばかりでしたが、今さんは建築学科などで教える大学教授だったので、学問としては異質な「考現学」以外にも、住居論、生活学、服装研究など人間生活に関わる分野で功績を残された方で、後々に与えている影響も多いそうです。

今さんが生きたのは大正から昭和の時代、1888年~1973年。
解説などを読んでみると、今さんについて考えるときには、ざっくり三つくらいに括れそうです。

○民家研究
早稲田大学の建築学科へ入学し、その後教授になるまでの間に、今さんは柳田国男さんと一緒に民家研究を行っています。早稲田での今さんの先生は、建築学科を創設者した佐藤功一さんという人。後の考現学での徹底したまでの観察や、記録をとるやり方は佐藤功一さんから教わったことが大きいらしく、佐藤さんのことも気になります。
今さんの民家研究のルーツは、その佐藤さんと柳田さんたちがつくった「白茅会(はくほうかい)」という民家研究の会に参加したこと。今さんが絵が上手だということで記録係としてご指名されたことが始まりのようです。
また、柳田国男と同行調査したことは、住居というものを単に入れ物や構造としてだけでなく、人の行動や土地土地の環境によって成り立っているという視点を培うキッカケだったようで、柳田さんの影響は計り知れないと思います。


その頃のスケッチ。絵が上手。
右側は漁村の物干し竿。下にイカが干されています。


○関東大震災と考現学
幼い頃から絵を描くことが好きだったそうですが、絵が上手なわけは、建築科に進む前に東京美術学校の図案科で学んだことに辿れます。そのルーツがあったことが、上の民家研究の経験に加わって震災後の活動にさらに表れてくるようです。
ひとつは「バラック装飾社」 の活動。地震後の火災によって焼け野原となった東京では、人々が瓦礫の中からあり合わせでバラックの住居を作っていたそうです。今さんはそれらの調査とともに、次々とできるバラックを美しくしようと、美術学校時代の仲間達とペンキでバラックを装飾するという活動を行っています。
もうひとつが「考現学」。震災以前に発達した都市社会は、複雑すぎて記録をとることは困難でしたが、震災後に東京の街がどんどん新しく作られていくのを見て、これを機会にその様子を記録していこうと考えたようです。これも美術学校の後輩であった吉田憲吉さんらと、『婦人公論』の記者だった嶋中雄作さんらが加わり、協力のもと調査を行ったということ。その調査結果は、紀伊国屋書店の田辺茂一さんの薦めなどもあり、1927年同店で開いた「しらべもの[考現学]展覧会」という場で発表されました。「考現学(モデルノロジオ)」という言葉も、この展覧会を機にして造ったということです。

今回の展示では、この展覧会を再現したような小部屋が設けられて、しらべものの数々を見る事ができました。


中学生の洋服の破れ方、街ででくわした犬の種類。他にも、洋服を着た女性「モガ」の散歩ルート、茶碗の欠け方、雨の日の履物の種類など。全てに絵が添えられて。。絵は今さんだけでは無いですが、なんかおかしいですよね。絵。極めつけの記録は、「蟻ガ50cmノ平地ヲ横ギル時間」。これには仰天。

○生活学、服装研究
地方や都市の暮らし、人の営みの観察は、さらに日常生活を考察する「生活学」や「服装研究」という新しい学問領域を開拓していくこととなりました。農村の生活の記録を視覚的に残すことで、生活改善を提案したり、建築の側面から住宅改善を訴えたりということを行っています。また、服装への興味は、住居が体を置くものであるように、服装は体を覆うものであるという共通点から自然と研究が進んでいった事柄のよう。


という今さんは、「ジャンパー先生」という異名をもっています。観察をする人は、観察されていることを人に意識させたらいけない。その場にいかに馴染んで存在するかが大事だということで、結果それがジャンパーだったらしい。 「ジャンパー」・・好きな言葉の一つです。この本はいつか読んでみたいと思います。

ジャンパーを着て四十年 (1967年)


人間生活のありとあらゆる事を観察し記録に残すことは、現実の実情や問題を浮き彫りにすることに繋がるんだろうけれど、その先はなんなんだろう、ともやっとする。いまでこそ考現学のようなものは世の中に沢山あるから、そう思うと不思議ではないけれど。今さんが何か著書や文章ではっきりと分析した結論づけなどはあるんだろうか、。わからないけれど、図録に収められていた黒石いずみさんという方の文章にはこのようにまとめられていて、なんとなくおさまりつきました。

今和次郎の細部を重視した暮らしへの視点は、「現実には一つの論理では説明できないさまざまな要素があり、問題の所在も明確にしがたいうえに、解決の見通しが立たない事がらも多く、単純に原因と解決方法を提示することの危険を感じた故」問いかけ続けられたのではないだろうか。

単純にまとめることには様々な要素を排除する怖さもあるという視点。


そして今回のポストカードはこちらにしました。
女人ノ髪ノクセ研究ノ整理図

1 件のコメント:

  1. お疲れお疲れ~
    良いね~~考現学、前から気になってた、買おう!

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