六本木「東京ミッドタウン」の場所には、遡ると江戸時代には長州藩・毛利家の下屋敷があったそうで、今回ミッドタウン5周年記念として毛利家ゆかりの品々が集められた展覧会がサントリー美術館で開かれています。「毛利家」といわれても、大名や歴史についての知識もほぼ無いし、大丈夫かなあと思いつつ行ってきましたが、さすがサントリー美術館。どんな展覧会でも毎回新しい発見があり、行ってよかったなーと思える私にとって信頼の美術館。一瞬でも気になった展覧会は、絶対に行って正解です。
ミッドタウンではこういうパンフレットも作っていて、江戸麻布屋敷と呼ばれていた頃のお屋敷図と現在のミッドタウンの配置を比べて見られるようになっています。
「毛利家の至宝展」ではほとんどの展示品が、山口にある毛利博物館からやってきていました。毛利邸の一部を使用して作られた立派な博物館で、毛利家に伝来する工芸品、資料を約2万点も収めているそうです。
その毛利博物館所蔵の、今回最大の目玉にされている作品が、国宝でもある雪舟の「四季山水図」です。絵巻になっていて、全長がなんと16m近くあるため「山水長巻」とも言われています。毛利博物館の方の講演会でも言われていましたが、10年前に東京国立博物館で雪舟展があった際は、ものすごい観客数で巻物を見るにも一苦労な状態だったけれど、今回はかなりゆったりと見られる機会になっていると。その通り、休日に行ってきましたがストレスない程度でじっくり行ったり来たりと見る事ができました。そう思うと、トーハクの企画展って見る環境としては本当にもどかしいなあと嫌になります。
「山水長巻」を間近で見ると、レプリカでいいので一巻まるごと手元に欲しいという、去りがたい気持ちになります。全体の雰囲気はうっすら暗くて、重めのクラシック音楽が似合うような、決してスカッとした気持ちよさみたいなのは無かったですが、くせのすごい作品でした。どこまでも延々と続いていくような錯覚に陥るほど、長さのインパクトがある一方で、一場面だけでもずっと見続けられる細部の耐性みたいなものがあり。細かい筆づかいや表現の繊細さが見えるのに、ダイナミックな勢いやリズムも感じる。不思議なバランスで保たれているのがなんとも心に残ります。
(山水長巻はないのです。。)
しかしこの「雪舟」なるものについて考えるとき、いつも違和感のようなわだかまりがつきまといます。というのも名前に対する先入観が取り払えないことです。
“雪舟=何となくすごい”、 をできるだけかき消して見ようと決めて行きましたが、隣で見ていた6〜7歳の男の子でさえ「雪舟はさあ、」と得意気に母親に説明していて、それはそれで天才か!と思いましたが、そんな子どもにまで「雪舟」フィルターがかかっているので、拒んでもどうしてもつきまとう名前の偉大さというのがあります。「国宝」とか「雪舟」とかいえども、爆発的に他のものより優れているということではないのですが。
そもそも「雪舟は・・・」という括りで感想が持てるほど、他の人の水墨画を沢山見てきたわけでもないので、そういう考えはもっと先延ばしにしようと今回決めました。きっと雪舟を一つ見るごとに、そういう先入観の雪舟を捨てて行けるような気がしました。
今回、雪舟研究にも精通している山下裕二先生の講演もありとっても興味があったのですが、この方はそういう作り上げられてきた雪舟観を破壊し再構築していくデストロイヤーなので、逆に引っ張られてしまいそうで、ニュートラルを保つためにも、毛利博物館の柴原直樹さんの「毛利家の歴史と文化」についてのお話の方を聞いてきました。
『雪舟はどう語られてきたか』山下裕二 編・監修
10年前のトーハクでの展覧会の頃にあわせて出ているこの本は、過去の美術史家を含めた著名な人たちの雪舟に関する文章を集めたもので、いつかしっかり雪舟を考える時がきたらここから始めようと思っています。
それから意外な気もしますが、柳宗悦も雪舟について書いたものを残しています。
『柳宗悦コレクション2 もの』柳宗悦
この本の中に「民藝と雪舟」という章がありました。雪舟が描いたと伝えられている「柳鷺図」を民藝館のコレクションに加えた際に、民藝と雪舟にどういう関係があるのかという問題が持ちあがり、そのいきさつの話から始まっています。もちろん雪舟の名で買ったわけではないのですが、その中で柳さんらしい印象的な表現の仕方がありました。
「一見すると民藝品と雪舟とはいたくかけ離れた存在のように見えるが・・・丁度自力門と他力門との違いのようなものでもある。・・・山に登る道筋が違うまでで、登りつめれば一つの頂きで相会うのである。・・・教典が違い教学が異なっても、同じ仏道を徹すればその究極に於いて大いに通じるもののあることを見逃してはならない。」
ようは、名や評判にとらわれないで心でものを見よ、ということで、民藝品だから良いとか貴族品だから良いという不自由な見方をしてはいけない、美しいものは美しいんだという話でした。
雪舟のものか定かでないのでなんともですが、でもあの柳宗悦が選んだことがあるというのは、雪舟の作品というのはその中でもだいぶ振り幅があるんだろうなという気がしました。「山水長巻」テイストの水墨画なら絶対買ってはいないと思うし、どういう感じがそこにはあったのかその辺りも今後気になります。
とはいえ、今回の「山水長巻」についての感想は雪舟の名に恐れることなく、素晴らしかった!と言いたいと思います。
そうそして、全129点の展示品の中では他にも見れてよかったものがいくつもあります。特に円山応挙の「鯉魚図」、雲谷等璠の「八江萩八景図巻」、俵屋宗達画/烏丸光広詞書の「西行物語絵巻」が印象的でした。
応挙「鯉魚図」3幅が出ていた中の1幅がこれです。2006年の和楽の表紙になっていました。鯉の滝登りの図で、実物は結構大きく白と黒の対比と鯉の構図がかっこいい水墨画。水流は白いのを上から塗ってるわけでもないし、どうなってるんですか!という驚き。
このように今回も楽しかったサントリー美術館であったのですが、この後つづく展覧会も全部楽しみにしています。
6/13〜 沖縄の紅型
8/8〜 デジタルを駆使してみせる日本美術
9/19〜 お伽草子
11/21〜 フィンランドのデザイン
9月のお伽草子はもしかすると今年一番見たい展覧会かもしれないです。一気に秋がくるのは絶対いやだけど、待ちきれない!